自己実現の手法において、「考えていることを積極的に開示・共有して人に協力を求めた方が良い」「口にすれば夢は実現する」という考え方がありますが、果たしてそれは本当に最適な方法なのでしょうか。
どのような立場であれ、仕事を行うにあたって「ビジネスアイデアや企画を守る」という心構えは、ビジネスマンにとって非常に重要であるといえます。
場合によっては、個人や企業の将来的な利益を、大きく逸失してしまうことにもなりかねません。
とはいえ、経営やマネジメントを行う立場にない場合は、危機管理について、常日頃から意識することは少ないかも知れません。
そこで、その重要性と方法論について、以下にてご説明いたします。
アイデアや企画は法的に保護されにくいということを知っておく
著作権法や特許法では、ビジネスアイデアは守れない
アイデアや企画に関して言及する際に、最も気を付けるべきことは、盗用と秘密漏洩のリスクです。
日本においてアイデアや企画、構想などを法的に保護することは、難しいというのが現状です。
例えば、実現にあたって協力を仰ぎたいがために、独創的で実現可能性の高いビジネスアイデアを他者に開示したところ、先行して事業化されてしまったとしても、「たまたま同じことを思いついた」「先に思いついたのは自分だ」と言い逃れられる可能性が高いということです。
創作表現については著作権法、登録された発明については特許法によって、権利者に対して独占的な使用権が付与されています。
しかし、ビジネスモデルや事業構想といったアイデアや企画、コンセプトについては、それらの法を適用して保護対象とすることができません。
企画書に記載している文章や図表、イラスト、画像などには著作権が発生しますが、アイデアやコンセプトはそのままに、表現の仕方を変えてしまえば、著作物としては別物となります。
特許申請が認められるためには、製造や生産、システムなど産業利用できる技術的発明であることが要件となっているため、これに該当しない場合も多くあるでしょう。
(また、特許登録を行うと、産業の発展に寄与することを目的として、その技術を公開する義務があります。
そのため、本家本元が後発の類似商品に駆逐されてしまうというリスクも否めません。)
秘密保持契約(NDA)の必要性とその不完全性
とはいえ、アイデアや企画を実現させるためには、業務提携や外注、資金調達などを行うために、情報開示を行う必要が出てくるでしょう。
そのため、情報を流用されることや第三者に漏れることを防ぐためには、「秘密保持契約(NDA:Non-Disclosure Agreement)」を締結してから話を進めることが一般的です。
この契約により、もし相手方がこちらから得た情報を無断で使用したり、故意または過失により漏洩が発生するなどした場合には、差止請求や損害賠償請求権が生じると定めることで、リスクヘッジします。
とはいえ、「そちらの秘密情報を利用した覚えはない」「これは秘密情報に該当しない」などと、巧妙に言い逃れをされてしまう可能性も否めません。
そのため、例え秘密保持契約を交わしたとしても、慎重な姿勢を崩すべきではありません。
不特定多数の人間をプロジェクトに介在させることのリスク
こういった理由から、参加者がアイデアや事業企画についてピッチを行うことで協力者や支援者を募るスタートアップイベントや、多くの場合特化されたプラットフォーム上で企画実現のための資金提供を呼び掛けるクラウドファンディングなどの活用についても、ある程度慎重になる必要があるでしょう。
自分のアイデアだということを公表することによって盗用されにくいとはいえますが、それはあくまで倫理上の観点であり、法的に十分保護されているということではありません。
リスクを理解し、そのうえで利用すべきかどうかを今一度検討してみることをお勧めします。
また、ハッカソンなどの共同で開発を行うようなイベントに参加する場合は、事前に同意書などを取り交わし、きちんと権利関係を明確にしておくべきでしょう。
何らかのビジネスアイデアが生まれた場合、その扱いについて揉めてしまう可能性もあるためです。
デザイナーやコピーライターなどのクリエイティブ職においては、コンペにおけるアイデアの盗用には十分注意しましょう。
例えば、自分は落選したものの、採用された作品を見てみると、自らの制作物と意匠の一部が似通っている、自らの制作コンセプトが流用され表現を変えられている、といった事態が起こり得ます。
このような場合、明らかな盗用といえる場合もあれば、判断の難しいケースもあります。
著作権によって守られるのはその具体的表現であり、着想やアイデア、コンセプトまでは守られません。
そのため、理想としては、できる限りコンセプト設計の段階からクライアントと受注契約を結ぶことや、せめて秘密保持契約を交わしてクローズドな場でデザインを詰めていくような仕事の進め方が望ましいといえるでしょう。
全てを理想通りに進めることは難しいのが現状ですが、認識はしておいた方が良いでしょう。
社内において個人の利益を守るために
会社員の場合、業務時間中の作成物に関する権利は会社に帰属するため、社内の人間と話をする際に秘密保持契約を結ぶということはないでしょう。
そのため危惧されることは、本来ならば自分のものとなるべき実績が、他者のものとなってしまうことです。
自らのアイデアが発端となり大きなプロジェクトに発展しても、肝心の自分が主導権を握れなければ、意味がありません。
社内においても、いずれ転職するにしても、自らの実績といえるようなプロジェクトを持つことは、そのキャリアパスにおいて大きな価値となります。
そのため、そのアイデアが有用である可能性が高ければ高いほど、不用意に開示することはお勧めしません。
言いやすさや気兼ねのなさからつい身近な同僚、先輩や後輩に意見を聞きたくなる気持ちもわかりますが、提案や相談は、きちんとした形で、決裁権を持つ上司に行いましょう。
また早い段階で、複数の関係者を前にできる会議やプレゼンなどの公式な場面において、自らの発案だということを明確にして存在を顕示すべきでしょう。
社内にビジネスアイデアの公募制度があれば、活用するのも一つの方法です。
アイデアや企画を守るために大切な3つのコミュニケーション
どのような形をもっても、他者と共有した時点で、アイデアや企画の盗用、漏洩のリスクを完全にゼロとすることは不可能です。
ですが、できる限り自らの権利と利益を守れるよう、能動的に立ち回ることを意識しましょう。
特に、突き詰め型人間の方は、状況を鑑みるより先にストレートな発言をしてしまいがちです。
今一度このことに自覚を持ち、意識的に行動していくことをお勧めします。
- 不用意にアイデアや企画を開示しないよう、十分注意しましょう。
- 企業間での企画提案や情報開示にあたっては、事前に「秘密保持契約(NDA)」を締結するようにしましょう。
- 社内でビジネスアイデアや企画を発案する際には、決裁権を持つ上司の承認を得ること、公式な場において発表することを主体的に行い、プロジェクトのイニシアティブを握れるようにしましょう。
むやみに吹聴せずとも、強い信念は実現する
経験上、「口に出すことが実現する」というよりは、「自分の中で言葉や明文化したことが実現する」つまり、「強い信念が実現する」ということが真実ではないかと思います。
それまでの経験を経て、自らの頭で考え抜いて「こうありたい、こういうことがしたい」という信念を持てば、自然とそれを実現するための行動に繋がるからです。
アイデアや企画、事業構想を口にしてはならないということではありません。 面接を制する者は転職活動を制する、と言っても過言ではないでしょう。 しかしながら、「突き詰め型人間」の方やコミュニケーションに苦手意識のある方は、採用面接に気後れしてしまうこともあるかも知れません。 ... 転職活動における採用面接で好印象を与えるためには、志望動機や自己PRといった話の内容が重要なのはもちろんのこと、それを相手に伝えるためのメディアとなる、見た目の印象を良くすることは大変重要です。 ビジ ... 就転職のゴールは、内定ではありません。 心身ともに安定した状態でベストパフォーマンスを行い、勤務を続けていくことが重要です。 そこで、仕事を円滑に進めていくために役立つコミュニケーションのコツをピック ... 「突き詰め型人間」とは、常に一つのことに集中し、それを突き詰めていく性質を持つ人々のことを指しています。 興味関心への探究心が強く、高い集中力をもって対象を深掘りしていき、理論構築を進めていくことが行 ...
重要なことは、目的のためにどのような手段を選ぶべきかを考えて、ストラテジックに行動するということです。
具体的にいえば、「構想を実現させるためのリソースを得るために、誰に、どのようなタイミングで、どの程度の内容を開示するのか」を計算して行うということです。
それでも防ぎきれない事態はあります。
そうであっても、利益の逸失を最小限に留められるよう、意識することが重要です。
権利や利益関係の問題によって、人間関係が壊れてしまう場合もあります。
自らの夢を実現し、これまで築いてきた人間関係を守るためにも、自律的に行動する姿勢が大切です。
そして、自分が思うようにことを運ぶため立ち回るには、コミュニケーション力、営業力が不可欠であることも認識しましょう。
営業力を上げるための方法については、以下の記事をぜひ参考にしてください。
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